WORLD JOURNEY / Dream / 2010-2011


【今の仕事が夢そのもの】
 

チベットの標高5200メートル地点に、エベレストのベースキャンプがある。石や岩の大地であるその地にはエベレストを眺めるために、あるいは世界一の高さに立つために、世界中から人々が集まる。

そんな荒涼とした土地に、数台のバイクが停められていた。こんなところに何台ものハーレーが?
興味が沸いたのでライダーズジャケットを着た男性に話を聞くと、ネパールのカトマンズから国境を越えて、バイクに乗ってきたという。

客を連れてバイクでベースキャンプまで旅をするというツアーを企画しているそうだ。いろんな仕事があるものだ。
自分の夢は、この仕事だと言う姿がとてもかっこよかった。

 


【映画監督】
 

襟を立てた黒い革ジャンに身を包み、髪の毛をしっかりとセットした青年がゲストハウスに帰ってきた。
口笛を吹きながらソファーに座ったその青年に、世界各地から集まった宿泊者たちの視線が集まる。大きな動作と共に、自信に満ちたような瞳の青年が、偶然にもその日その場所に集まった人々に声をかけていく。ゲストハウスの共有スペースは、彼を囲むようにして自然と輪ができていった。

写真を撮り合い、その場が盛り上ってきたのも束の間、「時間だ。映画を見に行ってくる」と、青年は風のようにその場を去っていった。
もしかすると、彼が監督した映画が公開されているかもしれない。そんな期待を抱かせてくれるような青年だった。

 


【喜捨の心を持ち続ける】
 

イスラムの教えには「裕福な者が貧しい者へ寄付・喜捨・施しをする」という考え方がある。裕福なものが貧しいものを支えるということは、つまり周囲に感謝し、他の人々を気遣う心を意味すると聞いたことがある。

日本ではイスラム教というとニュースで度々報道される過激で暴力的なイメージをもつ人が多いのかもしれないが、旅をしている時に感じた僕の印象はやはり異なる。

僕が理解するまで何度も穏やかに説明をしてくれた青年や、困っている時に声をかけてくれたエジプトの人々。観光業に携わる人の中には少しお節介な人もいたけれど、イスラム教の青年たちは僕が困っているといつも親切に助けてくれた。

 


【故郷に帰る】
 

旅を続けていると、ふと日本に帰りたくなる時がある。もちろんすぐに帰ることはないのだが、いざとなったら帰りたい時に帰れる場所があるという安心感は、旅を続けていられる原動力にもなった。

イスラエルとパレスチナの紛争から故郷のパレスチナを追われ、ヨルダンの首都アンマンで暮らしている青年と出会った。自分の国を追われ、居場所を失って異国で暮らし、帰りたい場所に帰ることができない環境を想像する。

「自分の夢は、自分の国に帰ることだ」
こんな夢があるということを、想像すらしたことがなかった。

 


【インドへ行きたい】
 

標高5150mに位置するエベレストのベースキャンプに到着した。目の前にそびえ立つエベレストに興奮したのも束の間、酸素が体内に回らず頭痛とめまいを感じた僕は、砂糖がたっぷりと入った甘ったるいチャイを飲んでいた。安息の場であるテントの中でチベット人男性たちが談笑しているのをぼんやり眺めていると、前歯の欠けた愛嬌のある男性と目が合った。

「ちょっといい?」
そう尋ねた僕は、チベットの食事や暮らしについて話を聞いた。優しい顔で答えてくれる男性に更にもう1つと「夢」を尋ねた。
「夢?そんなの、もうないよ」
ガハハと笑う表情に惹かれるようにその男性をじっと眺めていると、「いつか、ダライ・ラマ法王が住むインドへは行ってみたいな」と、ぼそりとつぶやいた。

 

【お店を開きたい(結婚相手のお金で)】

ぼんやりとコーヒーを飲んでいると、寝癖だらけの男性が話しかけてきた。
「僕は日本に住んでいたんだ。もちろん日本人の彼女がいたよ」「いつか日本で商売がしたい」とりとめのない話は続き、詐欺でも仕掛けてくるのではないかと警戒する。

「僕の夢は日本人女性と結婚することだよ」 怪しい。ますます怪しい。
「そしてその人のお金でお店を開きたい」「今は仕事をしていない」
「2年間仕事をせずにこうやって過ごしている」「だいたいいつも家で寝ている」
「暇なんだよ」

その後、この男性はお酒を飲み始めたと思ったら一人酔いつぶれてしまい、話していた通りに寝てしまった。ただのダメ男だった。

 

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